【旅】武蔵御嶽神社の夜神楽と宿坊・東馬場【青梅】

先日、かねてから楽しみにしていた東京は青梅の御岳山に行って来た。
色々なところでよくしていただき、最初から最後まで楽しいこと尽くめだったので、このブログをご覧の皆様にも是非足を運んで欲しい! という気持ちで記事にまとめてみた。
今回、いつにも増して長文なので、飲み物でも用意してのんびりどうぞ。
 
 

目的は夜神楽と宿坊

先日の大洗・磯前神社の日記で海に焦がれておきながら、その舌の根も乾かぬうちに御岳山? と思われた方もいるだろう。
実はこの御岳山の武蔵御嶽神社では、毎年6月~11月の第4日曜日に夜神楽が行われているのだ。
ケーブルカーの運転が18時台で終了してしまうため、20時開始となるそれを見るためには、宿坊に泊まることがほぼ必須条件となる。
宿坊そのものにも興味があり、昨年のうちから今回の青梅行きを決めていた。
 
 

まずはJR御嶽(みたけ)駅に到着。
(少し紛らわしいのだが、表記として山の名は『御岳山(「みたけさん)』となる)
 
 

やお九

丁度、お昼時なので駅から5分程のやお九へ向かう。
こちらは御岳山近辺を調べていた時に見つけたお店で、絶対にここで食べると決めていた。

ご自宅を改造したこぢんまりとした作りだが、ベランダはこのように川床になっていて、カヌーで下っていく姿が見えた。

注文したのは、やまめの焼き枯らし膳。

こちらの名物は国産地粉を使った「だんご汁」だが、丸いものではなく厚みのある平打ち麺に近い。
汁を一口飲んで、その出汁の味わいに驚かされた。
骨まで食べ尽くせる山女魚も美味しいし、季節の小鉢四種も野菜の味が濃い。
どれをとっても良い意味での丁寧な手作り感に溢れていて、食べていると幸せな気持ちになる。

その手作り感はもちろんデザートにも表れている。
ピール入りの自家製柚子シロップに、同じく自家製の練乳をトッピング。

それぞれ充分に美味しいのだが、少し苦みのきいた柚子と練乳が合わさるとヨーグルトのような味わいになる。

この魅力的過ぎるラインナップ……!
御岳山に向かう際には、立ち寄って欲しいお店だ。
 
 
やお九を出てから、バスの発車まで少し時間があったので川沿いの遊歩道を歩いてみた。

川の近くまで下りると、このように深い緑と清らかな水の気配を感じることが出来る。
今回は10分程度しか歩けなかったので、紅葉の季節にまた絶対くるぞ、と再訪を決意した。
 
 
御嶽駅まで戻ると、駅舎のすぐ向こうにロープウェー駅行きのバス停が見える。
バスの運行時間は1時間に1~2本なので、乗り遅れないように注意しよう。

乗車時間は約10分。
ケーブル下バス停で下車し、5分程坂道を登るとケーブルカー滝本駅に着く。

ここからケーブルカーに乗り、終点の御岳山駅まで。

乗車中「かなり急傾斜だな」などと窓から眺めていたのだが、この後まさにその「急な山」を体感することになる。
(車内アナウンスによると平均勾配22度、関東一らしい。しかしこの時の私は、その数字の意味を理解出来ていなかったのだ……)

そして御岳山駅に到着。
梅雨真っ只中であったため、この辺りから少し雲行きが怪しくなってくる。

山の中の参道を歩いてゆくと、御師(おし)集落が見えてきた。
立派な門や茅葺屋根などが見え、ここだけ時が停まっているような不思議な感動を覚える。

この山の武蔵御嶽神社は、かって御嶽山蔵王大権現として修験道の中心地だった。
そこに集った山伏達が、参拝客に宿を提供したのが御師の始まりだという。
神仏習合により現在は神社と名を変えたものの、宿坊が幾つも残っており、今でも宿泊することが出来る。
私が今回お世話になった宿坊・東馬場はその中でもかなり歴史のある建物なのだが、詳細はまた少し後で。

そんな御師集落を抜け、まずは神社に向かう。
 
 

武蔵御嶽神社

これは樹齢1000年以上と言われる神代欅。

実はこの辺りの参道である坂道が、えらく、えらく急なのだ。(在宅業デスクワークな生活を送る人間の感想です)
距離にするとさほどでもないのだが、急なのだ。
参道の石段の途中にベンチが幾つも置かれているのは、せめてもの情けではなかろうか。
ここで私はケーブルカーのアナウンス「平均勾配22度」を思い出すことになる。
みんな頑張ろう、私も頑張った。

この頃には濃密な霧が立ちこめており、写真が撮りにくくなったのは惜しいが、この異世界に続きそうな鳥居を見られたのは幸運だったなと思う。

本殿へ続く石段のところどころには、このような天邪鬼が嵌め込まれている。

これを踏むと邪気を祓うとされているので、見つけながら石段を登ってゆく。
(ちなみに三匹いて、形相も全部違う)
霧は雨に変わってしまい、せっかく辿り着いた本殿の写真を上手く撮ることが出来なかったのが心残り。

武蔵御嶽神社の狛犬は、狼を模したものが多い。(正確にはニホンオオカミ)
昔々、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が道に迷った時に白狼が現れ、軍を導いた。
尊はその狼に「大口真神(おおぐちまがみ)となりこの御岳山に留まり、全ての魔物を退治せよ」と仰せられた。
……というロマン溢れる由緒があり、「おいぬ様」として御札にもなっている。
地理的には御岳山のすぐ側、秩父の三峯神社も同じ日本武尊伝承があり、狼を眷属としているため、このあたりも物書き的には大変そそられる。
しかし話が完全に逸れて前に進まないので、今回は旅記事に絞ることにする。
 
 

長尾茶屋と天空のソムリエ

神社から少し下り、長尾平方面に進む。
時間にすると10分程度だろうか、「長尾茶屋」が見えてくる。
何とここには「天空のソムリエ」なる人物がいて、山中でワインが飲めるのだ。

ソムリエ川﨑さんのお話はこちらに詳しいので、興味のある方はご一読を。

長尾平は晴れていれば眺望の良い場所らしいのだが、この時もまだ雨が降り続いており、軒下でホットワインをいただいた。
六月の雨の山は、蒸し暑さとひんやりした空気が入り交じっている。
そんな中で飲む、スパイスと甘みのきいたワインは思い出に残る味だった。

着いた時、客は私一人だった。
少ししてまた一人、女性のお客様がやってきた。
雨宿りがてら話が弾み、今度一緒に他の山を登ろうという話になり、おやつまでいただき、LINEを交換して別れた。
今はお互いの旅の写真をやりとりしていて、また行きたい場所が増えてしまったのが最近の嬉しい悩みだ。

それから御師集落まで戻り、今夜の宿泊先である宿坊・東馬場に到着。

雨がひどく、ここでも外観を取り損ねてしまったため、まずは公式サイトをご覧いただきたい。

この建物は江戸時代(慶応2年)に、十代目当主が愛する奥様のために、実家と同じ間取りで建てたものだという。
そんな歴史を聞くだけでも心躍るではないか。
こちらの宿坊・東馬場は一日一組しか受け付けていないため、駄目もとで一人宿泊の問い合わせをしたところ(しかも夜神楽の日に)快諾していただいた。
それだけでもう好感度急上昇なのだが、滞在中も非常によくしていただいたので熱烈に推していきたい。

書院造りの見事なお座敷。
欄間の美しい細工、当時のまましっかり残っている金箔や漆塗りなど、旅館というより「大切な部屋に招かれた」という感覚を抱く。

到着の御挨拶後、お抹茶が運ばれてきた。
この青梅は、天保15年に作られた銅鍋で煮たものだという。

一息ついていると当主の方が見え、お屋敷の中を案内していただけることに。
まずは内神殿。

以前は漆塗りだったそうで、その姿も見てみたかったな、などと考える。
翌朝には朝のおつとめの声が聞こえて、ああ自分は確かに宿坊に泊まっているのだなと聞き入ってしまった。

座敷の窓もご覧の通り、江戸時代のまま。
ただし、防犯や防寒上の事情もあり、お屋敷内の大部分の窓はもうガラスが嵌め込まれている。

次は厠。
こちらには江戸時代のお手洗いが完璧な形で残っているのだ。
見よ、このやんごとない便器を。

私は彩り豊かな旧いタイルが大好きだ。
それと同じ括りでレトロな便器も興味があり、こちらには住居内に男女両方が現存していると知って、間取りや建築様式も込みで、この目で見たかったのである。
ちなみに貼るのは流石に自重するが、汲み取り式の形も完璧に残っている。
(念のため書いておくと、現在、お手洗いとして使用はされていない。見学のみ)

このお屋敷の中にいると、今が令和であることを忘れそうになる。

色々なお話を伺っているうちに夕食の時間に。
今回は夜神楽が目的ということは予め伝えてあり、少し早めに食事を用意していただいた。
大きなお膳に、所狭しと並んだ料理の数々。

先付、煮物、お刺身、天麩羅、茶碗蒸し、岩魚の塩焼き、汲み上げ豆腐、沢山の小鉢。
自家製山椒味噌がのった筍の炊き込みご飯。
(御岳山の宿坊の他のサイトを見ても、肉や魚は出る模様)

とにかく凄いボリュームで食べきれるか不安が過ぎったものの、どれも滋味豊かで箸がどんどん進む。
結局全て平らげた。
個人的に煮物の味付けが大変に好みだったので、もう一度食べたい。

夕食を済ませた後は、再び神社に向かう。
社務所の横が神楽殿になっており、中に入ると海外からの観光客らしき姿も見えた。

神楽は日本神話を元にしたものが多いが、粗筋を書いた紙をいただけるので予備知識なしでも大丈夫。
全部で一時間程で、厳かな動きに見入っているうちに、あっという間に時間が過ぎてゆく。
今夜の演目(座)は以下の通り。

①奉幣
舞台の中央と四方に幣を捧げる神楽。必ず最初に演じて舞台を祓い清める。

②トッパ・住吉
三輪明神(トッパ)と住吉明神による、太刀と扇の舞。

③天孫降臨
瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)、天鈿女命(アメノウズメノミコト)、猿田彦神(サルタヒコノカミ)による道開きの舞。

④山の神
健康と長寿を司る磐長姫(イワナガヒメ)の舞。

最後に神様にお供えした紅白の餅を客席にまく。無病息災の御利益があるという。

終了後、無事にまた宿坊まで戻り、入浴。
洗面所と浴室は現代風に改築されており、神楽を思い出しながらゆっくり湯に浸かった。
 
 
 
こちらが翌朝の朝食。

御岳山は刺身こんにゃくが有名らしく、食べてみたいと思っていたので嬉しかった。
とろりと柔らかく、何切れでも食べられそうな味わい。

朝は枝豆ご飯にゆかり。
炊き込みご飯大好き人間としては、夕、朝ともにこんな美味しいご飯が並んでとても嬉しい。
食後には、コーヒーが運ばれてきた。

こちらは宿坊だけでなく茶処も兼ねており、歴史あるお座敷でお茶や軽食をいただくことが出来る。
宿泊が難しい方は、神社参拝の行き帰りに立ち寄ってみては如何だろうか。

これは女将が焼いたクッキー。
晴れの日はお屋敷の前で無人販売になっていて、可愛いポストにお金を入れるらしい。

ここに泊まってみたい! という場合は公式サイトから直接メールによる予約が可能だ。
宿泊費は大人1名で16,200円(税込み)
(※ネットでは旧体系の料金が出てくる場合があるが、2019年最新はこの金額)
アメニティは以下。
・歯ブラシ
・シャンプー・コンディショナー
・ボディーソープ
・バスタオル
・浴衣
・ドライヤー

もし夜神楽の日に予約がとれなくても、他にも、沢山の宿坊があるので好みの場所に問い合わせてみるとよい。
朝のおつとめや、女性の滝行を受け付けている宿坊も。
 
 

おさらいと注意

・御岳山の武蔵御嶽神社で、毎年6月~11月の第4日曜日に夜神楽が行われている
・20時開始となるそれを見るためには、宿坊に泊まることがほぼ確定条件
(ケーブルカーの最終が出てしまうため。臨時運転があったとしても、その先のバスがやはり運転終了している時刻なので、車を持っていないと当日中に帰るのはかなり難しい)
・宿坊楽しい、さぁ予約

……なのだが、実は一つネックがある。
夜神楽は「日曜20時開始」であり、泊まれば当然、翌日は月曜日。
お勤めの方なら、半休をとるか、いっそ丸一日休んで近隣を観光するか、ということになる。
神社ではこの他にも一年に何度か神楽の一般公開を行っているので、そちらも参考にして欲しい。

武蔵御嶽神社 太々神楽
 
 
 

受け継がれるものと神楽鈴

御師・神職は基本的に代々受け継がれ、それはつまり「この山に生まれた男性は必ず神楽を舞えなければならない」ということを意味する。
神楽の席に小学生低学年くらいの男の子がいて、「未来の舞い手が見学にきています」というような紹介をされていた。
この話は宿坊の馬場氏も仰っていて「外から婿に入った男性もそこから練習を始める」とのこと。
実は丁度この夜の神楽で、ご子息が初めて猿田彦を舞ったのだそうだ。
お目出度い日の照れ隠しもあったとは思うが「息子が一人前に舞えるようになる頃には、私はこの世にいません」という言葉が印象深い。
もちろん、私から見れば充分に素晴らしい舞だった。
神楽に関しては他にも色々と興味深いお話を伺い、さらっと宮内庁などの名前も出てきて、余所者の私は、尊敬に一匙の畏怖を混ぜたような思いがした。
神に捧げるものを受け継いでゆく、その厳かな責任を私はただ想像するしか出来ないけれど、余所からたまにその世界に紛れ込んで眺める者として、山の宿坊とあの舞いがこれからもずっと続いて欲しいと思う。

というわけで神楽鈴だ。
夜神楽そのものは入場無料だが、衣装などの維持費となる浄財も受け付けている。

金額は任意。
しかし2000円おさめると、このような神楽鈴がいただける。
こう書くと完全に回し者っぽいのだが、神楽そのものは本当に無料である。
私がお節介で書いているだけである。
「磐長姫がまくお餅はこのあたりが拾いやすいです、もし拾えなかったらあとでお裾分けします!」などと言われたら惚れるしかない。
そんなわけで、宿坊に泊まる体験も含め、色々と非日常で刺激になると思うので、興味が湧いた方は是非是非、御岳山に行ってみて欲しい。

磐長姫がまいた餅は、自力で拾うことが出来た。
今後ネタにつまったら、いただいた神楽鈴を振って神頼みしようと考えている。

[ 【旅】武蔵御嶽神社の夜神楽と宿坊・東馬場【青梅】 ]TRIP, , , , 2019/07/12 22:48