【舞台】アリスインデッドリースクール 少年【感想】

『アリスインデッドリースクール 少年』千穐楽に行ってきた。
とても心に残る舞台だったので、感想をまとめてみようと思う。

『アリスインデッドリースクール 少年』公式サイト

まず最初に私の趣味語りが入るが、「そういう人間に刺さった作品」ということでご理解いただきたい。

ここ最近、私は密かにゾンビものに焦がれている。
自分の手で一度は書いてみたいな、と思っている。
「誰かを愛したり真面目に仕事をしたりして、明日があると信じて疑わなかった生者」が突然に「獰猛で心を喪失した死者」にスイッチしてしまうという物語に惹かれるからだ。
とある映画を観たことが切っ掛けだが、その紹介はまた改めて。
 
 
「アリスインデッドリースクール」は10年続いている少女演劇らしい。
大変恐縮だが、私は存在こそ知っていても少女版の方に足を運んだことはなかった。
長く続いた作品を今から観に行っても大丈夫だろうか、という迷いの方が大きかったのだ。
そこに朗報が流れてきた。
アリスイン少女の10周年の特別企画として、今回、少年版が上演されることになったらしい。

・私が大好きなゾンビもので少年ものだ
・しかも少年版の初演なら、ある意味では一番最初だ
・「夏の屋上に集う男子高生」にロマンを感じないわけがない

そして千穐楽のチケットをとった。
 
 
「ゾンビもの」と聞いてまず浮かぶ不安があると思う。

Q.バッドエンドですか?
A.幸福なトゥルーエンドと呼べるものではないかも知れない。でも間違いなく少年達が辿り着いた結末の一つ。

Q.グロテスクですか?
A.どろどろぐちゃぐちゃ、スプラッタ的なものは一切ない。

Q.少女版アリスインを知らなくても平気ですか?
A.舞台そのものは前情報が一切なくても恐らく平気。ただ世界観を深く考察し出すと、少女版の情報も必要かなというのが個人的感想。
 
 
では長い前置きを終え、感想に入ろう。
ただしネタバレを含むため、展開やオチを絶対に知りたくないという方は注意して欲しい。

とある夏休みの登校日。
漫才師を目指している主人公コンビ(ノブとユウ)が屋上で練習していると、映画研究会の生徒やそれを取材にきた他校の生徒、他人と関わることを拒む少年、漫研の生徒……と集まり、わいわいやっている。
すると突然、校舎内にゾンビが蔓延し始めたという凶報が入り、襲われた生徒が何人か屋上に逃げ込んでくる。

この「既に襲われた者」というのが最高にして最も不幸なフラグで、ゾンビ作品で傷を負った者(噛まれて感染した者)が登場したら、ほぼ間違いなく「人間」からは外れる。
ゾンビになる前に殺されるか自分で死ぬか、もしくはゾンビとなって知人を喰らうか。
筋書きから先に言ってしまうと、その「人間からゾンビに変貌する最期」は舞台では明確には描かれない。
傷を負った者達が無事な生徒に残りを託し、「自分」であるうちに去るからだ。
ある先輩は自ら焼却炉に入り、ある先輩は逃げ道確保用の爆破スイッチを押すため、独り残る。
大人組、学園の卒業生である男は「次に会ったら先輩って呼んで」という台詞を残し、笑顔で去る。

屋上に集った彼等には沢山の夢があった。
文化祭で漫才をやること。
声優になること。
人の助けになる仕事をすること。
アイドルになること。
逃げ場のない閉鎖空間で未来を夢見て泣き笑い、おにぎりやアップルデニッシュを食べミルクティーを飲み、でも残念ながら彼等の夢は「この世界」では叶わないという、腹立たしいくらい眩しくて残酷な、夏の一日の物語なのだ。
 
とにかく、板の上から届く「男子高生」感が凄い。
夏休みの屋上なんてただでさえ眩しく煌めくものなのに、人生最期の日、最後の瞬間なのだ。
大所帯にも関わらず全てのキャラにスポットが当てられ、それぞれが背負うもの、それによる物語がしっかり組み込まれているのが個人的に感激した。
どの役者さんの演技も素晴らしく、仕草や表情で、戸惑いや絶望、苛立ち、不安、仲間を思う気持ちを見せてくれた。
様々なシーンで泣いた。
このキャストでこの物語を観られて幸せだったなと心から思う。
本当は全キャラについて書きたいが、文字数があと3倍くらいになりそうなので自粛する。
 
 
何やらこのアリスインは「ループ世界」らしい。
ということは、この夏休みの屋上から全員揃って生き延びる世界もあるのだろう。
きっと何処かには。
ノブとユウが文化祭のステージに立ったり、ドウモトとミズキと会長でタコクラゲを組んで歌い踊り、それをセイジとカシムラとタケウチで楽しげに見守っていたり、タカモリ先輩とベニシマとカオルとトラでメイド喫茶をやったり、ミヤハラ先輩とハルキで(陸上部で)おばけ屋敷をやったり、いつかはケイスケが漫画家デビューして大ヒットしてその主演がナツキだったり、イナリとキリトが新しい作品を撮ったり、その時にはこの世界のヒカミも科学部や屋上で過ごした仲間と笑っていて欲しい。
でもそれら全て、この世界では叶わない。
 
 
ところでサイトの写真のナツキはヘアピンがないように見受けられるが、舞台が始まってあのヘアピンがついたのならスタイリストさんに5000デッドリー。
夢を喪い未来を憂い、死に片足突っ込んだような色々立ち位置が危ういイナリのカーディガンと、他人と関われないツンデレなミズキのパーカとロールアップ+ブーツも私の性癖過ぎた。
カシムラとタケウチの最期はもう私の中で想像するしかないので、想像するしかない。
 
 
というように、個人的にはとても楽しんだお芝居だったのだが、最初にも書いたようにデッドリー少年版は10周年の特別企画らしい。
円盤の予定もないし、次も未定らしい。
それでも、もっと広がって欲しい、出来れば再演が叶って欲しいという願いをこめてこれを書いている。

彼等をもう一度この目で見ようとするなら、物語が開幕する日にループするしかないのだから。

[ 【舞台】アリスインデッドリースクール 少年【感想】 ]感想2019/07/06 19:47