【旅】氷川丸とホテルニューグランドのプリン・ア・ラ・モード【横浜】

昨秋、横浜に行った。

私は昔から横浜という街が好きだ。
都内に住んでいた頃には頻繁に遊びに行ったし、作品の舞台に使ったりもした。
引っ越してからは少し足が遠のいていたものの、一昨年、真鶴に行った時に「もしかして横浜は私が考えていたよりも近いかも知れない」などと考えを改めたりして、展示を見に日帰りでふらりと足を運んだりもするようになった。
しかし実は人生の中で一度も泊まったことがない。
小田原や箱根、熱海まで行くと一泊しようという気持ちになるけれど、横浜は自分の中でどうも宿泊許可が出ないのだ。

そんな折、Go Toトラベルに加え横浜市独自の割引が適用されると知り、丁度ある場所を資料として撮影したかったことが決め手となって、いそいそと予約して向かった。
 
 

Pavlovの元町本店

まずはPavlovの元町本店へ。

こちらはカフェも併設していて、美しくて可愛いケーキをいただくことが出来る。
私が頼んだのはパブロフセット。
甘いパウンドケーキ三種と、本日のケーク・サレ二種、プチサラダにドリンクがつく。
オーダーするとこのような見本が運ばれてきて中から三種を選ぶのだけれど、もう全部下さい、という気持ち。

この小さな宝石のような中から、たった三つ。
余りにも罪作りな選択だ。
私の後から横のテーブルに座ったお嬢さんも「選べません……!」と唸っていた。
恐らく店内の皆さん同じ気持ちであったろう。

少し待つと、このように可憐に盛りつけられて登場。

この日のケーク・サレはベーコンときのこ、海老とアスパラガス。
甘いケーキと塩味のケーク・サレ、さっぱりしたサラダという完璧バランス。
これで1324円なんて申し訳ないくらいだ。
是非皆さんも……と言いたいところだが、席の予約は受け付けていないため若干、運任せなところはある。
ただ横浜は時間をつぶすための散策場所には困らないので、待ってでも食べる価値はある。
カフェの内装がまた素敵に可愛いのだ。
 
 

氷川丸

元町から山下公園へ。
これが今回の取材の目的である氷川丸

本物が係留保存されているだけあって乗船気分が高まる。
入場料300円を払い、中へ進むと───

ああ、私はどうして今までここに来なかったのか。
それは知らなかったからである。
船の外側だけだろうと勝手に思い込み、山下公園を何度も歩いたくせに中へ入ろうとは考えなかったのだ。
しかしそれは大いなる誤解なのだ。
当時の船内が雰囲気満点に保存もしくは再現され、昭和初期の豪華な船旅を味わえるのだ。

こちらは食堂。
テーブルには料理が並び、ナイフとフォークのSEまで流されている凝りようである。

この晩餐メニューは秩父宮殿下が乗船された時のもので、いつもよりも豪勢なものだという。
昭和12年、しかも船内でこれだけのメニューを用意するのは物凄い労力だったはずで、記されている料理名を眺めていると執念さえ感じる。

こちらは一等児童室。

スチュワーデスさんが在駐し、ご両親が食事中はここでお子様を遊ばせていたそうである。
ちなみに壁に描かれた絵は竣工当時のもの。

そして現れる美しき大階段。

美しい。
何と美しい。

そもそも何故に内部のことを知ったかというと、階段のここを華麗に厳かに飾るこの模様こそが「氷川丸」の名の元となった氷川神社の御神紋「八雲」であり、祭祀がお好きなフォロワーさんのツイートさんで知ったものなのだ。

情報というのは何処でどう繋がるか分からない。
ちなみに船内の神棚にも、氷川神社の御祭神が祀られていたらしい。

こちらは船内郵便局。

一等船客の一日と、デッキに置かれていた椅子。

こちらは喫煙室。
「お酒も煙草も上等なものばかり」と説明がある。

晩餐メニューにしろ、一日のスケジュールにしろ、この喫煙室にしろ、完全に上流階級の限られた者達のための場で、眺めながらあれこれと想像してしまう。

気持ちを落ち着けるために、少しばかり潮風に吹かれてみる。

船長室も趣きがあっていいのだが、この後にご紹介する一等船室と一等特別室がもう最高に最高なので、皆さんも氷川丸に乗り込んで欲しい。

こちらが一等船室。
氷川丸の三等客室は公式サイトで確認出来るけれど、比べるとこの一等がどれだけ広々としているか伝わるはずだ。
ベッドはアメリカ製の高級なもの、蛇口を捻ればお湯も水も出る仕様。
これだけでも充分に豪華だと感じるのだが、上には上というものがある。

こちらが一等特別室。
秩父宮両殿下やチャップリン、各国の貴人が利用したデラックスなスイートルームだ。

部屋専用のバスタブがあり、両脇に寝室と居室というゴージャスな造り。
壁紙なども当時のままだそうで、窓のステンドグラスの美しさにも目を奪われる。
繰り返すが、大正~昭和初期レトロを愛する方は是非一度この船を見学してみて欲しい。
時を停め、当時のままそこに残る空気を味わえるはずだ。


 
 

日本郵船歴史博物館

船を降りたあとは、海沿いをのんびり歩いて日本郵船歴史博物館へ。(現在休館中)

このコリント式の柱が重圧感を醸し出しており、当然ながら中も岩崎弥太郎の歴史と財力を感じさせるものとなっている。
ただ客船のパンフレットや絵葉書、晩餐メニュー、船長の制服なども展示されていて楽しいし、氷川丸と続けて見ると更に当時の船旅、客船内が色鮮やかに浮かぶようになるはずだ。
ちなみに秩父丸、浅間丸、龍田丸という同型三隻があるのだが、美人三姉妹として擬人化されたポスターなどもあり、思い出さずにはいられなかった
ちなみに氷川丸(300円)とここ日本郵船歴史博物館(400円)の両施設セット券は500円と少しお得なので、そういう意味でも梯子がおすすめ。
入場時に手指の消毒、更にビニール手袋着用での見学だったが、氷川丸ともに緊急事態宣言などの際には休館している場合もあるので、足を運ぶ前には公式サイトで確認した方がよい。

日本郵船歴史博物館から、また色々と建物を撮りつつ再び山下公園へ。
流石は横浜、惚れ惚れするような建物が幾つも並んでいるが、全部を紹介しているとこの記事が終わらないので省略。
 
 

ホテルニューグランド

そして。
今夜の宿はホテルニューグランド

関東大震災後、1927年開業。
ちなみにこの敷地は幕末期フランス海軍病院だったという。
まずは見事な内部をご覧あれ。
「ニューグランドブルー」と呼ばれる大階段。

チェックインは現在の新館の方で行われるせいか、こちらのロビーは人影も少ない。
この空間を独り占めする贅沢さ。
朝、昼と陽射しの入り方が変わり、夜は柔らかな照明が灯され、そのどれもが美しい。

宿泊も本館で、部屋はこのような感じ。
生憎と海は見えない側だったけれど、バスタブは広々としていてロマンたっぷり。

エレベーターは90年以上使われているものだそう。
上部の天女の図柄は絵ではなく何と絹の綴織。

更に、窓際のライトは寺院などでよく見る青銅製の吊灯籠を思わせる形だったり、絨毯の図案がオリエンタルだったり、柱の照明のレリーフでは弁財天が密かに見守っていたりと、和洋の組み合わせが特に印象的だった。


 
 

ホテルニューグランドのプリン・ア・ラ・モードとドリア

建物だけでも充分に素晴らしいのだが、今回のお目当てはもう一つある。
このニュー・グランドはプリン・ア・ラ・モード、シーフードドリア、ナポリタン発祥の地と言われており、泊まる際には絶対に食べようと決めていた。
(コーヒーハウスには宿泊客でなくとも入れるけれど、一つの儀式的な気持ちとして)

プリン・ア・ラ・モード当時のパティシエがアメリカの将校夫人達を喜ばせたいと考案したメニュー。
クロユリのあれはそんなメニューが帝都に広がったという想定で書いていたので、私の中では格別な思い入れがある。
一匙口に運ぶごとに色々とまた思い出したり、彼等の未来を考えたりして、楽しい一時だった。

夜は近くの中華街まで散歩。

お腹が減っていたら軽く何か食べようと考えていたものの、ドリアがボリュームたっぷりで全くお腹が減らない。
鳳林で冬の名物カシューナッツの甘炊きを買ってホテルへ戻った。

この甘炊きは危険な食べ物で、袋を空けたら最後、手がとまらない。
また今年の冬に買いに行きたい。

夜の氷川丸。

ライトアップされた中庭と、夜のロビー。

誰もいないロビーのソファに座り、また色々と思い出す。
センダギでもギンザでもヨコハマでも、船の上でも異国の地でも、これからも彼等は元気でやっていくことでしょう。
あくまでも個人的な妄想ですが、何らかの形で全員、船に乗るのではと夢見ています。
五周年おめでとう、そしてニルアドを愛して下さった皆様どうも有難うございました。
これからも帝都の彼等をよろしくお願いします。

以上で横浜編は終了です。
明日は鎌倉編でレトロ成分は控えめですが、紅葉が美しく猫が可愛いかったのでお時間のある方は覗いてみて下さい。

[ 【旅】氷川丸とホテルニューグランドのプリン・ア・ラ・モード【... ]TRIP, , , , 2021/06/12 17:14